2021年1月27日水曜日

【21C_h3 2014(h26)年】

【21th Century Chronicle 2014(h26)年】


◎聴覚障害の作曲家に代作疑惑

*2014.2.5/ 聴覚障害の作曲家の作品が、ゴーストライターによる代作だったことが判明する。


 重度の聴覚障害をもつ作曲家「佐村河内守」は、ゲーム音楽や「交響曲第1番《HIROSHIMA》」などを作曲した音楽家として脚光を浴びたが、2014(h26)年2月5日、自作としていたそれらの曲が、ゴーストライターの代作によるものであると、代理人の弁護士を通じて明かした。

 翌2014(h26)年2月6日発売の「週刊文春」誌上では、「佐村河内守の楽曲は新垣隆によるものである」というスクープ記事が発表された。この記事内容は、事前に佐村河内に送られており、それを受けて前日の2月5日に、虚偽であることを公表したものと考えられる。佐村河内側は代作であることを認めながら、実際の作曲者を明らかにせず、作曲者の側に作曲者として表に出づらい事情があるとしていた。


 しかし、週刊誌が発売された同日に実作者の「新垣隆」が記者会見して、そのような事情はないとした。さらに、佐村河内の曲は全て自分が担当した、佐村河内の耳は聞こえている、CDの解説はほとんどが嘘である、佐村河内は楽譜も全く書けない、などと証言した。

  2014(h26)年2月12日、佐村河内は代理人の弁護士を通じて、マスコミ各社に直筆の謝罪文を送ったが、ほとんどが弁明に終始し、新垣の証言内容を否定するものだった。しかし2月15日には、弁護士が辞任し、佐村河内の説明が首尾一貫せず、不信感を抱き弁護できないと、辞任理由を公表した。


 気弱なオタク風の代作者新垣隆は、記者会見で、まるで犯罪者扱いのマスコミの質問にも、おどおどしながらも誠実に答えているように見えた。一方で、3月7日には佐村河内が会見、多大なご迷惑を掛けたと謝罪会見をする。事実の判明後、初めてマスコミの前に登場した佐村河内は、それまでの長髪・あご鬚・サングラスの強面風容貌をすっかり変え、髪や鬚をサッパリとさせサラリーマン風の姿で登場し、周囲を驚かせた。

 まったく対照的なキャラクターの両人の偶然の出会いが、このような事件を作り出した。新垣隆は、音楽能力は専門家も認める技術を持ちながら、自称音楽オタクと言うぐらいで、ひたすら気弱な生真面目さを漂わせるが、佐村河内は若くして俳優を目指したり、元暴走族総長だの極真空手の有段者だのと強面プロフィールでロックバンドで売り出そうとするなど、その半生をフィクションで固めて、虚言癖をうかがわせる前歴が明らかになった。


 ◎「STAP細胞」疑惑

*2014.4.1/ 理研が「STAP細胞の論文でデータのねつ造と改竄」とする調査結果を発表する。


 2014(h26)年1月、「STAP細胞」を、小保方晴子(理化学研究所)と笹井芳樹(理化学研究所)らが、チャールズ・バカンティ(ハーバード・メディカルスクール)や若山照彦(山梨大学)と共同で発見したとして、論文2本を学術雑誌ネイチャーに発表した。発表当初、画期的な成果として注目を集め、小保方が若い女性研究者であることもあって、科学界以外の一般世間でも大きな話題となった。

 しかし、論文発表直後から様々な疑義や不正があるとの指摘が相次ぎ、理研などで調査を進めていた。2014(h26)年4月1日、理化学研究所は研究論文の疑義に関する調査最終報告を公表し、論文に掲載された実験画像の2項目について不正があると認定した。4月9日には、小保方が記者会見「STAP細胞はあります」と主張したが、画像や解析結果の疑義には反駁できず、7月2日にネイチャーに投稿された論文は撤回に追い込まれた。


 さらに、8月6日には論文の著者の1人で、小保方をサポートした理研の笹井芳樹副センター長が自殺し、社会的な騒動にまで発展していった。その後も検証実験を続けていた理化学研究所は、同年12月19日に「STAP現象の確認に至らなかった」と報告し、実験打ち切りを発表する。同25日に調査委員会によって提出された調査報告書では、STAP細胞とされるサンプルは、すべて「ES細胞」の混入によって説明できるとし、STAP論文はほぼ全て否定されたと結論づけた。

 「STAP細胞」とは、「刺激惹起性多能性獲得 "Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency" 細胞」のことで、その英語の頭文字から取った略称である。動物の分化した細胞に、弱酸性溶液に浸すなどの外的刺激を与えて、再び分化する能力を獲得(リプログラミング)させたとして発表された細胞である。


 ヒトなど高等生物の細胞は、たった一つの受精卵から、様々な機能の細胞に分化していく。しかしその逆に、分化した細胞組織が、未分化な「多能性細胞(万能細胞)」にもどることはない。もしこのような多能性細胞に戻すこと(リプログラミング)ができれば、それから体のさまざまな細胞に分化誘導できるため、再生医療の可能性が飛躍的に拡大される。

 この "万能細胞"と呼称される代表的なものには、細胞分裂を始めた受精卵から生じた胚盤から得られる「ES細胞(胚性幹細胞)」がある。しかしES細胞を得るためには、受精卵から発生が進んだ「胚盤胞」を取り出す必要があり、これは生命の萌芽として、ヒトの細胞の場合、倫理問題の対象となるとともに、移植する場合の拒絶反応の問題もある。


 2007(h19)年11月、京都大学の山中伸弥らは、ヒトの大人の体細胞に4種類の遺伝子を導入することで、ES細胞に似た人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製に成功した。この「iPS細胞」は、ES細胞の作製時における倫理的問題や拒絶反応の問題を一挙に解決できるため、ES細胞に代わる細胞として大きな注目と期待を集めている。

 ただ、iPS細胞は、その作成段階で一部癌遺伝子の注入が行われるので、その腫瘍化の危険をクリアする必要があるのと、その作成にかかわる多くの時間と費用という問題が残されている。だが、これらは多くの研究者が分担して関わることで、順次解消され、着々と実用化に向けて進められている。


 そこへSTAP細胞が発表され、遺伝子の導入などによらず、簡単な外的刺激(細胞を弱酸性溶液に短時間浸す、など)を与えることのみで実現できると話題を呼んだ。従来、動物細胞の分化した状態を無効にして初期化(リプログラミング)し、万能細胞にすることはできないとされていたため、STAP細胞の発見は生命科学の常識を覆す大発見とされた。

 しかし、論文の不正引用など様々な疑惑が指摘され、各方面で徹底検証や再現実験が為された結果、STAP細胞は再現されないと結論付けられた。小保方は今でもそれを認めていないようだが、STAP細胞の存在は全否定され、理化学研究所は事実上の懲戒解雇となり、早稲田大学における博士号は、学位論文の形式上の不正などを理由に学位取り消しとされ、事実上の研究者生命は絶たれた。


 しかしながら、何がこのような騒動を引き起こしたかは、解明されないまま幕引きされた。学生時代のエピソードなどから、小保方氏の虚言癖が指摘されているが、実験結果を意図的に捏造したのか、氏自身は実現したと思い込んでいるのかは不明である。また、STAP細胞の発表を大々的にプロデュースしたあと、トカゲの尻尾切りをした理研や、その研究と論文に関わった研究者の責任は問われないままに終わった。


◎高齢男性の青酸化合物連続死事件 「後妻業の女」

*2014.11.19/ 高齢男性3人が青酸化合物殺害された事件で、容疑者の老女が逮捕される。


 2013(h25)年12月、京都府向日市の不審死した男性A(75)から、司法解剖によって青酸化合物が検出されたのが端緒となり、事件は発覚した。死亡した男性Aは、妻 筧千佐子(67)と結婚相談所を介して知り合い、2013(h25)年11月に結婚したばかりであった。警察の捜査により千佐子は、事件当時約1,000万円の借金を抱えており、千佐子の周辺では1994(h6)年以降、男性10人が死亡し、総額で数億円の遺産を受け取っていたことも判明した。このため遺産取得を目的とした連続殺人事件の疑いが浮上した。

 大阪府貝塚市の男性B(71)は、2010(h22)年10月ごろ結婚相談所を介して千佐子との交際を始めたが、2012(h24)年3月9日、泉佐野市でバイクを運転中に転倒、搬送先の病院で死亡が確認された。搬送時は突発性の心停止とされたが、Aの事件発覚後大阪府警が再鑑定したところ、致死量の2倍の青酸化合物が発見された。Bの死後、千佐子はBの資産約2,000万円相当の遺産を手にしていた。


 2014(h26)年11月19日、京都府警は千佐子を男性A殺人容疑で逮捕、千佐子はAの殺害について当初は否認するも、後に「殺した」と供述し、同年12月10日、京都地方検察庁は千佐子を同罪で起訴した。千佐子は、1994(h6)年以降の自身の周囲で起こった約10人の不審死のうち、8人の死に対する関与を認める供述をした。2015(h27)年1月28日、大阪府警察本部は男性B殺人容疑で千佐子を再逮捕する。

 さらに2015(h27)年6月11日、大阪府警察捜査本部は、2004(h16)年に結婚相談所を介して千佐子と出会い、株式投資の資金として、千佐子に4,000万円を貸していた神戸市の男性C(79)に対する殺人未遂容疑で千佐子を再逮捕。2007年12月、借金の返済を免れる目的で青酸化合物を飲ませ、神戸市の路上で青酸中毒にさせた殺人未遂容疑であり、その1年半後にCは死亡している。


 2015(h27)年9月9日、大阪府などの合同捜査本部は、2012(h24)年10月ごろ結婚相談所を介して千佐子と知り合った兵庫県伊丹市の男性D(75)に、レストランで青酸化合物を服用させて青酸中毒に陥らせ死亡させたと判定した。当時は肺がんとされていたが、再調査の結果、青酸中毒と推定された。

 そのほかにも、奈良県奈良市の男性E(75)、大阪府松原市の男性F(75)、兵庫県南あわじ市の男性G(68)、大阪府堺市の男性H(68)の4人に対しても、千佐子は殺人を認める供述をしていたが、大阪地方検察庁は、これらの被害者に対する容疑については嫌疑不十分として不起訴とした。


 筧千佐子は、1994年以降の自身の周囲で起こった約10人の不審死のうち、上記8人の死に対する関与を認める供述をしたが、最終的には、A・B・Dの3人に対する殺人罪とCに対する殺人未遂罪で起訴された。

 筧千佐子は上記事件のほとんどで、結婚相談所などを通じて知り合った高齢男性と、婚姻ないし内縁関係をもち、青酸化合物などで死に至らしめたと考えられ、その目的は資産・金銭の奪取であるとされた。一介の老婆が、化粧と嬌態で孤独な老齢男性に近づき、毒物で殺害し、その男性の資産や金銭を奪うという単純至極なパターンが、10件近く遂行されて、20年近く露見しなかったことには驚かされる。


 裁判では、認知症を発症しているとされる被告人筧千佐子の責任能力と、被告人の供述以外の直接証拠が乏しいことが争点となったが、京都地裁第一審は、状況証拠から犯行を認定し、事件時は認知症は発症していなかったとして完全責任能力も認め、死刑判決を下した。大阪高裁控訴審でも第1審判決を支持した。本人は「死んでおわびをします。死刑にしてください」などと話しているが、弁護団は認知症などを理由に、上告している。

 なお、黒川博行の小説「後妻業」は、「別冊文藝春秋」2012(h24)年3月号から2013(h25)年11月号まで連載されており、2016(h28)年8月には「後妻業の女」のタイトルで映画化されたりと話題を呼んだが、著者はこの事件をモデルにしたものではないと明言している。


(この年の出来事)

*2014.3.18/ ロシアが、ウクライナ領だったクリミアを併合する。

*2014.6.29/ イスラム過激派組織ISが、国家樹立を宣言する。

*2014.7.27/ 長崎佐世保で、高1女子生徒が同級生を殺害する。




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