2020年9月1日火曜日

【20C_m4 1901(m34)年】

 【20th Century Chronicle 1901(m34)年】


◎20世紀が始まる

*1901.1.1/ 近代的教育システムを導入し、新時代を担う学校として創設された慶応義塾大学で、「19世紀・20世紀の送迎会」なる催しが開かれ、新世紀の到来を祝った。

*1901.1.22/ 7つの海を制した大英帝国に、60年にわたり君臨したビクトリア女王が死去。

*1901.2.5/ 官営八幡製鉄所スタート。近代化をめざし、第1溶鉱炉に火が入る。


  20世紀の最初となるこの年、大英帝国に63年にわたって君臨したビクトリア女王が死去し、7つの海を制した大英帝国繁栄の歴史に一つの区切りがついた。女王の治世末期には、さしもの大英帝国の国力にも陰りが見られ、ドイツ、アメリカ、日本などの後発が、その地位を揺るがすようになると、まもなく栄光の孤立を捨て日英同盟を結ぶなど、列強間の力のバランスを保つ努力にむかう。

 19世紀が産業革命と帝国主義の時代とすると、20世紀は、さらなる科学技術の発展と人口爆発の時代だった。飛行機、潜水艦、宇宙ロケットなどの開発により、人類は深海から、空、宇宙にまで行動範囲を拡大し、一方で、人口は20世紀初頭の15億から、20世紀末には4倍の60億にも達した。


 地球上に人口が爆発し、帝国主義列強による後発地域の分割も、20世紀初頭にほぼ完結すると、錯綜した利害関係は調整が付かなくなり、やがて第1次世界大戦が勃発する。さらにその四半世紀後には第2次大戦と、20世紀前半は世界大戦の時代でもあった。これ以降、20世紀の各年を象徴的な事物・事件を通じて眺めてみよう。

 19世紀にまさに幕を下ろさんとする1900年、絶頂期のアール・ヌーボー様式に取り囲まれ、4月パリ万国博により華麗に幕が切って落とされた。7月には全長128mの巨大な世界最初の硬式飛行船「ツェッペリン号」が空に浮かび、やがては世界一周もやってのける。また、ドイツ客船「ドイチュラント号」は大西洋横断スピード記録を達成した。


 文化方面では、芸術至上主義で世紀末芸術を率いたオスカー・ワイルドが、パリの片隅でひっそりと息をひきとり、世紀末のみならず21世紀まで射貫く矢を放ったフリードリッヒ・ニーチェは、狂気の10年間を経て没した。一方で、ジークムント・フロイトが「夢判断」を出版し、「無意識界」を探索し精神分析への道を拓いた年でもあった。

 かつて詩人鮎川信夫は、「マルクス、ニーチェ、フロイトを齧っておけば、適当に現代思想など展開できる」と言ってのけた。19世紀の人マルクスは社会的無意識、別名「資本主義的欲望」を解明する端緒となったし、ニーチェは「権力への意志」などで、宗教的民族的無意識をえぐり出し、そしてフロイトは、個人史の背景にある「個人的無意識」を発見した。


 そもそも「芸術」とは、これらの目に見えない「無意識」を実在化する試みであるとも言える。ともあれ、これらの「無意識の発見」は、二つの大戦後の世界を貫き通したテーマでもあった。鮎川信夫の詩人的感性が、このことをまさしく感知していたと言える。

 米では、第25代大統領ウィリアム・マッキンリーがアナーキストの男に暗殺された。彼の在任中には、米西戦争に勝利しフィリピン、キューバを支配下に置き、さらにはハワイを併合するなど、米国の帝国主義進出の端を開くことになった。暗殺後、あとを引き継いだセオドア・ルーズベルトも、同様の政策を推進してゆく。


 清朝中国では、李鴻章が宰相として「洋務運動(近代化運動)」を推進し、太平天国の乱、日清戦争、義和団事件なと、清朝末期の難問題を老獪に処理して来たが、その李鴻章がこの年の末に死去し、清国は列強の浸食にさらされながら滅亡へと向かう。

 これらは、19世紀の帝国主義の成熟時代に、新たな変化をもたらす兆しでもあった。やがてヨーロッパ列強の関係は、複雑な同盟・対立関係で錯綜し、第1次大戦へと向かっていった。


 この年の初め、米テキサスで大油田が発見され、ガルフ、テキサコといった国際石油メジャーを誕生させることになった。日本でも官営の八幡製鉄所が誕生するなどしたが、金融王J.P.モルガンは、世界最大だったカーネギー製鋼を買収し、自己所有の鉄鋼9社と合わせて、全米鉄鋼の7割を占める超巨大な「USスチール」を誕生させた。また、大西洋と太平洋を結ぶパナマ運河の独占建設権を、アメリカがフランスから獲得した。これらの産業や事業の巨大化は、巨大な資本を必要とし、モルガンやロックフェラーなどの大財閥が誕生した。


 「モルガン財閥」は、ジョン・ピアポント・モルガンが、父がロンドンで起こした会社を受けつぎ、19世紀末には世界最大の銀行家となった。J.P.モルガンは他の有力銀行家らと組み、鉄道建設への投資に注力、1890年代までに多くの主要鉄道会社を支配するに至った。さらに鉄道関連産業として、エジソン電灯会社、ベル電話会社などと資本的関係を結び、後の巨大独占企業ゼネラル・エレクトリック(GE)、AT&Tへと育て上げた。

 1901年、カーネギー製鋼を買収統合しUSスチールを生み出すと、鉄鋼業を基幹として、死の商人デュポン、鉄道王バンダビルト、金鉱王ダッヂなどの巨頭と組んで、兵器産業、自動車産業(ゼネラルモータースGE)、さらには保険、放送、映画といったサービス産業も傘下に収めてゆき、端緒に就いたばかりの航空機産業や、やがては原爆製造のマンハッタン計画にまで参画することになる。


 一方の「ロックフェラー財閥」は、ジョン・ロックフェラーが精油業「スタンダード・オイル」を創業し、全米の石油の90%をコントロールしたとも言われる。弟のウィリアム・ロックフェラーは、ナショナル・シティー銀行ニューヨーク(現在のシティグループ)創業者の一人となり、ロックフェラー一族として、モルガン財閥、メロン財閥とならぶ財閥を形成した。


 金融業から産業支配を展開したモルガン財閥に対して、ロックフェラー財閥は石油業を支配した資本から展開した。弟ウィリアムがナショナル・シティー銀行を創業することで、金融業も手中に収めると、モルガンと同じく、石油業や金融業を拡大するとともに、鉄道業(ユニオン・パシフィック鉄道)、電機産業(ウェスチングハウス)、さらにUSスチールへの株式投資など、様々な企業を傘下に収める。またモルガンと組んで軍事産業にも参入、マンハッタン計画にもウェスチングハウスなどを通じて参加している。


 かくして「モルガン=ロックフェラー帝国」とも呼ばれる巨大財閥たちは、その政府への影響力も強大となり、彼らの最大のビジネスとも言える二つの世界大戦へなだれ込んで行く。


(この年の出来事)

*1901.6.2/ 始めて元老でない桂太郎が指名され、第1次桂内閣が成立する。

*1901.12.10/ 田中正造が、天皇に、足尾鉱山鉱毒事件を直訴する。

*1901.12.10/ スウェーデンで第1回ノーベル賞授賞式が行われ、物理学賞はドイツのレントゲンが授賞する。


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