◎明暦の大火
*1657.1.18/ 江戸本郷の本妙寺より出火、翌日にかけて江戸城はじめ江戸市中の大半が消失する。
*1657.2.29/ 大火の焼死者の埋葬供養のため、本所に回向院を創建する。
「火事と喧嘩は江戸の花」と言われたように、江戸では大火が頻発し、世界でも類例がない「火災都市」とされる。江戸時代260余年の間に、大火と呼ばれるものだけでも50回もあり、中でも「明暦の大火」「明和の大火」「文化の大火」は、江戸三大大火と称される。
とくに明暦の大火は、延焼面積・死者ともに江戸時代最大であり、江戸城の天守を含めて、多数の大名屋敷と市街地の大半を焼失した。この明暦の大火を契機に、江戸の都市改造が行われ、武家屋敷・大名屋敷・寺社などの多くが移転した。
さらに防災への取り組みも行われ、延焼を遮断する火除地や広小路が設けられ、防火のための建築規制も行われた。それでも、板葺き屋根や板壁の密集した長屋なども多く残り、その後もしばしば大火に見舞われた。
明暦3(1657)年1月18日から20日にかけて、江戸の街の大半を焼きつくした。当時は2ヵ月以上も雨が降っておらず、非常に乾燥した状況のもとで、朝方から北西風が強く吹いていたという。しかも、ほぼ連続的に本郷・小石川・麹町の3ヵ所から発火したため、古い密集した市街地が一気に焼き尽くされていった。
火災の後、多数の身元不明の遺体は本所牛島新田に埋葬され、その供養のために万人塚、後の本所回向院が建立された。また幕府は、武士町人を問わない復興資金援助、備蓄米放出などの緊急の支援を施し、旗本らには救済金、大名の参勤交代の停止など、災害復旧支援に力を注いだ。
出火原因には諸説あるが、なかでも本妙寺失火説には、次のような伝承があり、「振袖火事」とも呼ばれる。
お江戸麻布の裕福な質屋 遠州屋の娘 梅乃(17)は、本郷の本妙寺に母と墓参に行ったその帰り、上野の山ですれ違った寺の小姓らしき美少年に一目惚れ。ぼうっと彼の後ろ姿を見送り、母に声をかけられて正気にもどり、赤面して下を向く。梅乃はこの日から寝ても覚めても彼のことが忘れられず、恋の病か、食欲もなくし寝込んでしまう。
名も身元も知れぬ方ならばせめてもと、案じる両親に彼が着ていた服と同じ、荒磯と菊柄の振袖を作ってもらい、その振袖をかき抱いては彼の面影を思い焦がれる日々だった。だがいたましくも病は悪化、梅乃は若い盛りの命を散らす。両親は葬礼の日、せめてもの供養にと娘の棺に生前愛した形見の振袖をかけてやった。
当時こういう棺に掛けられた遺品などは寺男たちがもらっていいことになっていた。この振袖は本妙寺の寺男によって転売され、上野の町娘 きの(16)のものとなる。ところがこの娘もしばらくの後に病となって亡くなり、振袖は彼女の棺にかけられて、奇しくも梅乃の命日にまた本妙寺に持ち込まれた。
寺男たちは再度それを売り、振袖は別の町娘 いく(16)の手に渡る。ところがこの娘もほどなく病気になって死去、振袖はまたも棺に掛けられ、本妙寺に運び込まれてきた。さすがに寺男たちも因縁を感じ、住職は問題の振袖を寺で焼いて供養することにした。
住職が読経しながら護摩の火の中に振袖を投げこむと、にわかに北方から一陣の狂風が吹きおこり、裾に火のついた振袖は人が立ちあがったような姿で空に舞い上がり、寺の軒先に舞い落ちて火を移した。たちまち大屋根を覆った紅蓮の炎は突風に煽られ、湯島六丁目方面から駿河台へと燃えひろがり、ついには江戸の町を焼き尽くす大火となった。
なお「振袖火事」は、「八百屋お七」の放火事件と混同されることが多いが、これはボヤで消火されたとされ、時期も20数年後の出来事である。
(この時期の出来事)
*1656.2.-/ 幕府は、頬被り・覆面や華美な服装、贅沢な装飾を禁じる。
*1656.12.24/ 幕府の要請に基づいて、吉原遊郭が浅草寺裏への移転を受け入れる。
*1657.2.27/ 水戸藩主徳川頼房の世子徳川光圀(30)が、神田の別邸に史局を開設し「大日本史」の編纂を始める。
*1657.7.18/ 旗本奴の水野十郎左衛門が、町奴の幡随院長兵衛をだまし討ちで斬殺する。
*1658.9.8/ 従来の大名火消が明暦の大火に対応できなかったため、幕府は新たに若年寄の支配下に「定火消」を組織する。
*1658.11.-/ 幕府は再度、人身売買を禁止するとともに、10年以上の年季奉公を禁じた条例を発する。
*1659.6.-/ 隠元隆琦(隠元禅師)が、山城宇治に黄檗山万福寺を創建する。
*1660.2.23/ 幕府が防火のため、市中に家屋建築規則を示す。
*1660.7.18/ 仙台藩主伊達綱宗は、日ごろの不行跡を問われ、幕府から逼塞を命じられる。(伊達騒動の遠因)
*1660.7.18/ 仙台藩主伊達綱宗は、日ごろの不行跡を問われ、幕府から逼塞を命じられる。(伊達騒動の遠因)
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